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逆風を乗り越える:メキシコ自動車産業を揺るがす地政学的リスク

メキシコ自動車産業に影響を与える地政学的要因


1. 米国関税の脅威とUSMCA再評価


最大の懸念は、2026年に予定されている米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の再評価だ。業界関係者は、原産地規則の厳格化とアジア製部品への監視強化が、メキシコからの輸出条件を大きく制限する可能性があると警鐘を鳴らしている。


さらに、米国は2025年に輸入車・部品全体に25%の関税を発表(USMCA適用製品は除外)。このような政策は、メキシコへの投資判断に重くのしかかっている。


これに対抗して、メキシコは中国などアジア諸国からの自動車輸入に最大50%の関税を検討中。しかしこれは、中国からの報復、部品コスト上昇、外交的緊張といった副作用を伴うリスクがある。


2. 拡大する中国の存在と戦略的反発


中国の自動車メーカーはメキシコ市場への進出を加速。2025年には、メキシコへの輸出元としてロシアを抜いて最大となった。しかし、これにより米国の警戒が高まり、「裏口輸出」問題として取り上げられている。


メキシコが中国車への50%関税を打ち出す動きに対し、中国は「圧力の下での行動」と批判し、対抗措置の可能性を示唆している。


3. 米国依存とニアショアリングの限界


メキシコの自動車輸出の約83%が米国向け。この一極集中構造は、米国の政策変更に対して極めて脆弱だ。実際、BBVAの調査によれば、2025年半ばには製造業が大幅に縮小。自動車部門は投資停滞や関税リスクの影響を大きく受けた。


また、EVバッテリーや重要部材の供給体制が整っていないため、電動化時代のチャンスを十分に活かせていない。


4. 投資判断の見直しと生産移転


米GMは、関税リスクを警戒して40億ドルを投じて生産の一部を米国に移すと発表。ホンダもシビックの生産計画をメキシコからインディアナ州に変更した。


今後の不確実性に備え、多くの自動車メーカーが生産拠点や調達網の再編を検討中である。


主な不確実性とメキシコ自動車産業への影響


不確実性

影響

米国による関税強化または貿易戦争の激化

輸出需要の急減と投資減少のリスク

USMCAの原産地規則の厳格化

コスト増とサプライチェーン再構築の必要性

中国の報復や外交的摩擦

部品供給の混乱と市場アクセスの障害

EV/バッテリーの供給網の弱さ

次世代モビリティへの参入機会を逃す

投資移転と生産移動

競争力と雇用の喪失、新規投資の減少

これらの不確実性が重なることで、メキシコの自動車産業は「守り」に回らざるを得ない状況だ。今後1〜2年は、北米の自動車エコシステム内での立ち位置が問われる試練の期間となる。


今後の展望とメキシコが取るべき戦略


注目すべきシナリオ:

  1. 限定的保護主義の成功:中国製輸入車へ選択的関税を導入しつつ、USMCAの恩恵を維持。

  2. 貿易摩擦の激化:米国が関税を拡大し、中国が報復措置。メキシコは板挟みに。

  3. 戦略的脱依存:自動車メーカーがリスク回避のためにメキシコから生産移転。

  4. バリューチェーン高度化:EVバッテリーや重要鉱物に投資し、競争力強化。


提言:

  • 現地調達とサプライチェーンの強化国内供給体制を整えることで、規制変更や関税の影響を最小限に。

  • 外交交渉の強化USMCA再評価において、有利な条件の確保と例外措置の交渉が鍵。

  • 投資判断の柔軟化各種シナリオを想定した柔軟な投資・生産計画が必要。

  • 輸出先の多様化米国依存から脱却し、ラテンアメリカや欧州への輸出も視野に。

  • 中国以外との戦略的連携日本、欧州、韓国などとのパートナーシップで技術力・安定性を強化。


メキシコの自動車産業はもはや「ニアショアリング」の恩恵だけでは生き残れない。関税、貿易協定、そして中国との微妙なパワーバランスが、投資と生産の方向性を大きく左右している。今こそ、供給網の強化、巧みな外交、そして戦略的な意思決定によって、未来の位置づけを勝ち取る時だ。

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