CIBancoの崩壊とメキシコ金融システムの現在地:制裁・清算・信頼回復への試練と規制強化が示す金融主権の課題
- Panorama Advisors Insights
- Oct 14
- 6 min read
2025年6月、米国財務省の金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)は、メキシコの複数の金融機関、具体的には CIBanco(シ・バンコ)、Intercam Banco、および証券会社の Vector Casa de Bolsa を、「主要なマネーロンダリング関係組織(primary money laundering concern)」に指定しました。
その根拠として、これらの金融機関が薬物カルテルや合成麻薬(特にフェンタニルの前駆体化学物質取引)に関与する資金の移動や決済を支援した可能性が指摘されたのです。
この指定によって、米国内の銀行との取引を禁止または制限する措置が導入され、国際的な金融ネットワークから切り離されるリスクが生じました。
メキシコ当局はこれを受けて、状況のコントロールを図るため、金融監督機関(CNBV:Comisión Nacional Bancaria y de Valores)が関与し、CIBanco や Intercam に対して行政介入や暫定的管理を行いました。
さらに、信託業務(トラスト業務)については、政府系開発銀行に暫定的に移管し、信託契約や資産保全を継続させる措置も取られました。
これらの対応のなかで、CIBanco の経営状態は深刻化していき、最終的には 2025年10月10日、メキシコの監督当局は CIBanco の銀行業務ライセンスを取り消し、清算プロセスを開始しました。
CIBanco の清算と預金者保護の措置
ライセンス取り消し以後、CIBanco は国内銀行としての業務を停止し、清算フェーズに移行しました。
これに伴い、メキシコの預金保護機関である IPAB(Instituto para la Protección al Ahorro Bancario) は、預金者に対する支払いを開始。保護対象の預金限度額は「400,000 ユニダデス・デ・インベストメント(UDIs、インフレ連動通貨単位)」に相当する額、つまりペソ換算で約 3.4 百万ペソ(=約 340 万ペソ、約 18〜20 万ドル前後)までと発表されています。
ただし、株主、取締役、高位幹部の預金や債権は保護対象外とされ、これらの者には清算手続きの枠組みのなかで請求権が残る可能性があります。
その他、ローン(債務)契約については、清算しても契約自体は存続し、借入者は支払いを継続する義務があります。
このような措置は、預金者の信頼保全と金融システムの秩序維持を図るためですが、現場では顧客の資金移動制限や口座凍結、国外送金停止など混乱を伴う事例が報じられています。
金融システム全体への衝撃とリスク
CIBanco の崩壊は、メキシコの金融システムに対して複数の波及リスクを投げかけています。以下に主な影響と懸念点を整理します。
信頼喪失と預金流出リスク
金融機関が国際制裁や資金洗浄疑惑で制裁を受け、最終的に清算に至るという事態は、一般の預金者や企業の間に不安を引き起こします。特に中小企業や個人預金者は、銀行選択に慎重になり、預金を他行に移す動き(銀行間競争激化や資金流出)が起こる可能性があります。
相互依存性とシステミックリスク
メキシコの銀行システムは米国との金融結びつきが強いため、米国当局の制裁は直接的な影響力を持ちます。たとえば、制裁対象金融機関に米国銀行が支払いを停止すれば、その影響は連鎖的に広がりうる。
また、過去にも「Operation Casablanca」など、米国からの制裁がメキシコ銀行に波及した前例があり、今回の事態も新しいものではないとの指摘もあります。
金融機関のリスク管理が甘ければ、他の銀行や金融グループにも類似の疑いが向けられ、信用不安の拡大が懸念されます。
規制とコンプライアンス強化への圧力
当局(CNBV や金融庁)は、AML(アンチマネーロンダリング)および CFT(資金洗浄対策/テロ資金供与防止)の制度強化を急務とされます。今回の事件は、形式的なコンプライアンス対応では限界があるという警鐘ともなっています。
ただし、過度な規制強化は銀行コストを押し上げ、貸出抑制など実体経済への悪影響も孕みます。バランスを取った制度設計が鍵になります。
国際的な関係と主権リスク
米国の監督と制裁権力がメキシコ国内銀行を実質的に操作できるという構図は、主権的な金融政策運営上の難題を提示します。国内当局は米国側に説明責任を求めつつも、外圧による制度運用の自由度が制約される可能性があります。
この関係性が、今後の米墨金融協力や条約・協定交渉の文脈にも影響を与えうるでしょう。
現時点で観察される動きと対策
現段階で、メキシコ政府・監督機関・金融機関がとっている主な対策や動きを以下に整理します。
信託業務の暫定移管CIBanco や Intercam の信託部門を、国営または政府系銀行に一時的に移管して、契約の継続と資産保全を図る措置が取られています。
清算と預金者対応IPAB による預金保護・支払い対応が始まり、一部の顧客にはオンライン申請や口座振替による資金受け取りが可能になっています。
罰金・行政措置メキシコ当局(CNBV)は、CIBanco、Intercam、Vector に対して合計で約 1.85 億ペソ(米ドル換算で約 1,000 万ドル規模)の罰金を科す決定を行いました。
監督強化・ガバナンス介入規制当局が銀行の内部管理体制を点検・介入し、AML 部門やコンプライアンス部門の強化を命じています。
法的対抗および異議申立てCIBanco は米国で制裁措置に対する訴訟を提起したものの、FinCEN 側の期間延長措置のもとで訴訟を取り下げています。
今後の展望と注意すべき論点
CIBanco 事件は一過性のショックではなく、メキシコ金融制度に構造的課題を照らす事例でもあります。今後、注視すべきポイントを以下に挙げます。
他金融機関への波及リスク CIBanco は比較的小規模な銀行とはいえ、その清算が他行への信用引き締め圧力を生む可能性があります。同様の制裁リスクを回避するため、他の銀行も AML・リスク管理体制を早急に見直す必要があります。
中小金融機関や地域銀行への影響 主要銀行が注力する資源を AML や監査対応に割く余裕がある一方、中小銀行や地方銀行はコスト負荷が膨らみやすく、貸出余力や運営余裕が圧迫される可能性があります。
制度設計と国際協力のバランス 米国など国際的な監督制度との協調を図りつつ、メキシコ独自の制度主権を確保する枠組みが求められます。たとえば、情報交換体制、制裁プロセスの透明性確保、異議申立て制度の整備などが課題として浮かびそうです。
信頼回復と顧客保護の継続性 清算が進むなか、預金者への迅速な支払い、資産の保全、顧客との説明責任対応が金融機関・政府双方にとって不可欠です。再発防止策も含めた信頼回復が鍵になります。
金融革新との調和 デジタル金融、フィンテック、オープンバンキングなどの潮流を取り込みつつも、これらの技術がマネーロンダリングなどに悪用されないような監視・制度設計が必要です。








Comments